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不信(芝居)

評価★★★★+(4.5)

東京芸術劇場シアターイーストで上演

疑念が疑念を呼び、不信が舞台を支配する。三谷幸喜の台本は細部まで練り込まれ、実力派俳優4人(優香、段田安則栗原英雄戸田恵子)が真っ向からぶつかり合う。破綻か和解か、どこに行き着くか分からない緊張感溢れるミステリー仕立てのドラマだった。

暗転、2幕もの、シリアス。三谷が得意とするのはシチュエーションコメディだから、異例の3要素が勢揃いといった感じだ。挑戦作なのは間違いない。

コメディの場合と同様、ささいな会話の中にストーリー上の布石が散りばめられる。台詞の妙を追い風に、役者が真剣に演じれば演じるほど面白くなるというコメディの定説を当てはめるなら、真剣に演じるほどシリアスさは格段に増す。

夫婦A(段田&優香)が、マンションの隣に住む夫婦B(戸田&栗原)宅に引っ越しの挨拶に来たところから、物語は始まる。B宅の強烈な犬の臭いに鼻をつまむA夫。犬と臭いは、たびたび伏線として顔を出す。愛犬家・三谷の実体験が生かされているのだろう。

表面上は穏やな近所付き合いをしていたが、B夫人の万引きをA夫人が目撃し、事態は思わぬ方向に展開する。商品を次々と盗む戸田の演技は、大胆に誇張されており楽しい。シリアスな展開の中で、こうしたユーモアがスパイスとして効いていた。

AがBを疑う構図。A宅の持ち物がB宅から次々と見つかり、A夫人の不信は頂点に。開き直って振る舞うB夫人を追及しようと夫を差し向ける。

年の差カップルならではの「女のおねだり」によって、振り回されっぱなしな夫の様が愉快。妻の窃盗癖を必死に庇うB夫も似たような立場だ。現代の世相が透ける。

いわば冷戦は、不法侵入、盗聴と泥仕合の様相に。被害者だったA夫人が不信から狂気的な妄想癖を見せ始め、加害者へと変貌する。そこで浮かび上がるのは、B夫の妻への深い愛情だ。胡散臭そうに振る舞い、怪しげな風体だった彼の苦悩に心に入る。

ラストに向けてサスペンスの色合いがより濃くなり、息つく暇ないスリリングな展開が続く。2夫婦間の不信は、A夫婦の相互不信へと様変わりする。互いに全てをさらけ出した夫婦の行く末は、観客に委ねた。

堅実な男優二人の演技に対して、戸田と優香が伸び伸びと演じきった。コメディエンヌとしての才が随所に感じられた。